量子力学のコペンハーゲン解釈は、「量子力学の標準解釈」と権威づけされているが、実は意味不明な解釈である。  そこで、コペンハーゲン解釈の最終的決定版として、著者は「言語的(コペンハーゲン)解釈[=量子言語]」を提案した。 これについて以下に書く。


§1.[もののけ世界観]→ [力学的世界観]→ [言語的世界観]

世界観・世界記述の研究は3000年以上の歴史があるが、いつの時代も科学と哲学の中心的テーマであった。 中世までの「(物に命が宿る)もののけ世界観」からの飛躍(パラダイムシフト)は、ガリレオ、ベーコン、デカルト、ニュートン等の仕事を通して自然発生した「力学的世界観」である。この威力は絶大で中世から近代への扉を開けた(図1の@)。ここで、「力学的世界観」とは、

(A) 物理学をお手本にして、(物理以外の)諸科学を考えよ!

である。単純であるが、世界記述の最良の規範として、今だに現代科学に君臨している。
  そうであれば、誰もが「第二のパラダイムシフト」を夢見るかもしれないが、簡単な話ではない。事実、カタストロフィ、ファジィ、複雑系、カオス等、頓挫した夢を枚挙すれば切りがない。 しかし、それでもやめられないのがパラダイムシフトの追究で、「大きな物語」を語りたいという本能には抗しきれない。
  ということで、ここでは、図1の言語系列(二元論的観念論)の最終形態として、量子言語による「言語的世界観(C)」を提案し、これを第二のパラダイムシフトと主張する。


§2.事の発端: ハイゼンベルグの不確定性原理の発見

事の発端は、20年程前のハイゼンベルグの不確定性原理(の数学的定式化)の発見で(cf. 文献[1])、この正体がわかると、

(B) 「量子力学とは、何か?」を追究したくなる

量子力学には幾つかの流儀(例えば、コペンハーゲン解釈、多世界解釈、確率的解釈等)があって、(B)の答えは研究者によってマチマチで、言わば諸子百家の状態である。応用の分野ならば、それでも「臭いものに蓋」として何とかやって来られたが、ハイゼンベルグの不確定性原理ともなると、これではやはり困る。「○○流儀のハイゼンベルグの不確定性原理」では困るわけである。

§3.始めに言葉ありき ―― 言霊信仰 ――

量子力学が誕生して、もう(まだ?)約90年であるが、我々はとんでもない先入観に囚われているかもしれない。すなわち、「量子力学は物理学である」という思い込みである。さて、結論を先に書くと、言語的世界観(図1の)とは、

(C) 量子言語という言語が先にあって、それで世界を記述・構築する

となる(cf. 文献[2, 3])。量子言語の説明は省略するが、「数行程度の簡単な二つの(測定と因果律に関する) 呪文」と思えばよい。量子言語と言っても、日常的現象を記述できて、量子言語で経済現象を記述したのが経済学である。 また、

量子言語で量子現象を記述したのが量子力学である

これが「量子力学の真の姿」であると主張して、これを(B)の答えとする。したがって、 図1の「→A」は歴史的経緯で、実体はその逆の「←A」である(ここでは「大学で習う普通の量子力学」を想定していて、図1のBの先にあるであろう「量子物理学」には関わらない)。 すなわち、(C) = (D)、つまり、

で、
諸科学とは量子言語で記述された世界のことである

と言語的世界観(C)は主張する。したがって、
諸科学のど真ん中に「量子言語という形而上学」が居座っている

ということになる。「呪文に力がある」という意味で、(C)は言霊信仰と言ってもいいだろう。
 量子力学を物理学と思うから、いろいろなパラドックス・流儀・解釈が生じてしまうのだと考える。シュレーディンガーの猫など、物理現象のわけがないし、そもそも、物理学に「解釈」とか「二元論」とかという言葉は似合わない。 このような考えは、特にユニークというわけではなくて、アインシュタインも終生、量子力学を物理学とは認めなかったのは有名な話である。

§4. 力学的世界観(A) vs. 言語的世界観(C)

たとえば、「アキレスは亀を追い越せない」のゼノンのパラドックスについて、 2500年間も議論している哲学者は等比級数も知らない馬鹿か? と思うのは常識人――力学的世界観(A)の信奉者――である。 哲学者たちは、(A)を是としない立場で「新しい世界観の下でのアキレスと亀」を模索しているのである。 また、「統計学とは、何か?」も、(A)の立場からでは解答できないわけで、やはり量子言語が必須となる。 また、「時空とは、何か?」が物理学だけのテーマでないことも明らかになる。 また更に、言語的世界観(C)の理解無くして、哲学の本流(二元論的観念論)の理解は永久に不可能なはずで、意味不明な哲学書ばかりなのはこの理由による。 このように、 (C)を始点にすれば未解決問題が次々と解けるのだから、「(A) vs. (C)」には勝算がある。というよりも、「お手本」では曖昧すぎて、力学的世界観 (A)は[図1:大きな物語]の中に居場所がない。そもそも(A)を「世界観」としたことが間違いで、やはり「お手本」以上のものではない。
 ケンブリッジ大学の物理学者ホーキング博士は、ベストセラー[ホーキング、宇宙を語る―ビッグバンからブラックホールまで (ハヤカワ文庫)]の中で、

(E) アリストテレスからカントに至る哲学の偉大な伝統から見て、現代哲学の、なんという凋落ぶりだろう

と、「哲学と科学との乖離」に苛立ちを隠さずに、率直に述べている.   図1のの存在を知らなければ、ホーキング博士ならずとも誰もが、カント以降を延命哲学として、(A)を始点とするしかないと思うだろう。

§5.大きな物語のハッピーエンド― 3000年のファイナル アンサー ―

さて、 現状では「図1のCの証拠固め」はほぼ完了したと考える。したがって、大きな物語の二つの終焉(図1のBとC)のカウントダウンが始まったと信じる。アインシュタインが指し示した方向を目指すBは、世界で最も敷居の高い教育・研究機関のエリート達の独壇場かもしれない。一方、Cの方向性は天才の御神託があるわけではなくて、方向を見出すための地道な試行錯誤を重ねるだけなので、エリート無用である。今後、量子言語を超えるものを誰かに案出してもらいたいという気持ちもあるが、その可能性は皆無と信じる。
  そうだとしても、すなわち、図1の物理系列と言語系列の両者の顔が立ったという意味で、

大きな物語のハッピーエンド

だとしても、もう既にポストモダンの時代[=小さな物語の時代=諸科学(工学・諸社会科学・バイオ等)の時代]に突入しているのだから、科学はいつの時代も忙しい。

[参考文献] 量子力学の知識がある程度あるならば [2,3,4,24,27]を先に読むのがお勧め。[8,28]は学部のテキスト。 [24,28]は大学院の講義ノートで、これを読めば現時点の「言語的コペンハーゲン解釈」のすべてを理解したことになる。 [26,27,28]は数物・哲学の知識無しでも読めるように書いたので高校生でも読めるはずで、[26,27]から始めるのがベストかもしれない。

理系の学生が哲学に興味を持つことを全否定するわけではないが、はやり(ファインマン博士やホーキング博士が言っているように)警戒した方がいい。 まず[26, 27]を読んで、西洋哲学に対する接し方を学んで、 哲学と付き合ってもらいたい。論理学より数物、また心の哲学より脳科学・AIという理系では当たり前の感覚を失ってはならない。

[1]: S. Ishikawa, "Uncertainty Relations in Simultaneous Measurements for Arbitrary Observables," Rep. Math. Phys., Vol. 29, No. 3, pp. 257-273 (1991) doi: 10.1016/0034-4877(91)90046-P, [PDF download]
[2]: S. Ishikawa, "A New Interpretation of Quantum Mechanics," Journal of Quantum Information Science, Vol. 1 No. 2, 2011, pp. 35-42. doi: 10.4236/jqis.2011.12005 ( download free)
[3]: S. Ishikawa, "The linguistic interpretation of quantum mechanics," arXiv:1204.3892v1[physics.hist-ph] , (2012) ( download free)
[4]: S. Ishikawa, "Quantum Mechanics and the Philosophy of Language: Reconsideration of Traditional Philosophies," Journal of quantum information science, Vol. 2, No. 1, 2012, pp.2-9. doi: 10.4236/jqis.2012.21002 ( download free)
[5]: S. Ishikawa, "Fuzzy Inferences by Algebraic Method," Fuzzy Sets and Systems, Vol. 87, No. 2, 1997, pp.181-200. doi: 10.1016/S0165-0114(96)00035-8 , [PDF download]
[6]: S. Ishikawa, "A Quantum Mechanical Approach to Fuzzy Theory," Fuzzy Sets and Systems, Vol. 90, No. 3, 1997, pp. 277-306. doi: 10.1016/S0165-0114(96)00114-5 , [PDF download]
[7]: S. Ishikawa, "Statistics in measurements," Fuzzy sets and systems, Vol. 116, No. 2, 141-154 (2000). doi:10.1016/S0165-0114(98)00280-2 , [PDF download]
[8]: S. Ishikawa, "Mathematical Foundations of Measurement Theory," Keio University Press Inc. 335pages, 2006. http://www.keio-up.co.jp/kup/mfomt/
[9]: S. Ishikawa, "A Measurement Theoretical Foundation of Statistics," Applied Mathematics, Vol. 3, No. 3, 2012, pp. 283-292. doi: 10.4236/am.2012.33044 ( download free)
[10]: S. Ishikawa, "Ergodic Hypothesis and Equilibrium Statistical Mechanics in the Quantum Mechanical World View," World Journal of Mechanics, Vol. 2, No. 2, 2012, pp. 125-130. doi:10.4236/wjm.2012.22014 ( download free)
[11]: S. Ishikawa, "Zeno's paradoxes in the Mechanical World View," arXiv:1205.1290v1 [physics.hist-ph] , (2012) ( download free)
[12]: S. Ishikawa, "Monty Hall Problem and the Principle of Equal Probability in Measurement Theory," Applied Mathematics , Vol. 3, No. 7, 2012, pp. 788-794. doi:10.4236/am.2012.37117 ( download free)
[13]: S. Ishikawa, "What is statistics?; The Answer by Quantum Language," arXiv:1207.0407v1 [physics.data-an]} , 2012 ( download free)
[14]: S. Ishikawa: "Measurement Theory in the Science of Philosophy," arXiv:1209.3483v1[physics.hist-ph] ,( 2012) (download free)
この和訳は、 石川史郎:科学哲学序説 --- 測定理論による諸科学の統一 --- (紫峰出版) 
[15]: S. Ishikawa: "Heisenberg uncertainty principle and quantum Zeno effects in the linguistic interpretation of quantum mechanics," http://arxiv.org/abs/1308.5469[quant-ph] ,( 2013) (download free)
[16]: S. Ishikawa: "A quantum linguistic characterization of the reverse relation between confidence interval and hypothesis testing," http://arxiv.org/abs/1401.2709[math.ST] ,( 2014) (download free)
[17]: S. Ishikawa: "ANOVA (analysis of variance) in the quantum linguistic formulation of statistics," http://arxiv.org/abs/1402.0606[math.ST] ,( 2014) (download free)
[18]: S. Ishikawa: "Regression analysis in quantum language," http://arxiv.org/abs/1403.0060[math.ST] ,( 2014) (download free)
[19]: S. Ishikawa, K. Kikuchi: "Kalman filter in quantum language," http://arxiv.org/abs/1404.2664[math.ST] ,( 2014) (download free)
[20]: S. Ishikawa: "The double-slit quantum eraser experiments and Hardy's paradox in the quantum linguistic interpretation," http://arxiv.org/abs/1407.5143[quantum-ph] ,( 2014) (download free)
[21]: S. Ishikawa: "The Final Solutions of Monty Hall Problem and Three Prisoners Problem," arXiv:1408.0963v1 [stat.OT] ,( 2014) (download free)
[22]: S. Ishikawa: "The two-envelope paradox in non-Bayesian and Bayesian statistics," arXiv:1408.4916v3 [stat.OT] ,( 2014) (download free)
[23]: S. Ishikawa: "Linguistic interpretation of quantum mechanics: Quantum language," KSTS/RR-15/001 [Reseach Report; Keio Math] ,( 2015), 416 pages (download free) or, KSTS/RR-15/001 [S. Ishikawa]
[24]: S. Ishikawa, "Linguistic interpretation of quantum mechanics; Projection Postulate," Journal of Quantum Information Science, Vol. 5 No. 4, 2015, pp. 150-155. DOI: 10.4236/jqis.2015.54017 (download free)   
Also, see Reseach Report; Keio Math [KSTS/RR-15/009](S. Ishikawa ). ( download free) ,arXiv:1511.07777 [physics.gen-ph] ,( 2015), (download free)
[25]: S. Ishikawa: "Linguistic interpretation of quantum mechanics: Quantum language [ver. 2]," Research Report, Keio Math. [KSTS/RR-16/001] ,( 2016), 426 pages (download free) or, Research Report, Keio Math. [KSTS/RR-16/001] (S. Ishikawa)
The html version is seen in the right side bar. Also, this preprint is the draf of the following book.
Shiro Ishikawa, "Linguistic Interpretation of Quantum Mechanics - Towards World-Description in Quantum Language -" Shiho-Shuppan Publisher 2016, ( 405 pages)

♦ この和訳は、 量子言語入門(大学院講義ノート); 紫峰出版, 2015
[26]: S. Ishikawa: "History of Western Philosophy from the quantum theoretical point of view," Reseach Report; Keio Math [KSTS/RR-16/005] ,( 2016), 141 pages (download free) or, Reseach Report; Keio Math [KSTS/RR-16/005](S. Ishikawa )    or,   Philpapers (2016)
このpreprintは和訳されて、次で出版されている:
量子論から見た西洋哲学史; 紫峰出版, 2016

また、 上の書籍の日本語Web版ブログは右サイドバーに移行した
[27]: S. Ishikawa: "A final solution to the mind-body problem by quantum language" Journal of quantum information science, Vo.7 No.2 2017, 48-56 (download free), The preprint is as follows: Reseach Report; Keio Math [KSTS/RR-17/003](S. Ishikawa )(download free),
[28]: S. Ishikawa: "History of Western Philosophy from the quantum theoretical point of view, Versin 2" Reseach Report; Keio Math [KSTS/RR-17/004](S. Ishikawa ) ,( 2017), 139 pages (download free)
[29]: 科学哲学・量子言語: 石川ブログ ブログ The Blog of Keio Quantum Philosophy Society (Adviser: S. Ishikawa) [Japanese version] ,( 2012-2017