名前 島津 秀康
所属 基礎理工学専攻/数理科学専修
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「局所多項式回帰による平滑化の諸性質とその適用」
事前に仮定を置くことなく,注目する変量間の関数関係をデータから抽出する平滑化は様々な分野でその威力を発揮し,多くの成果を挙げています.特にClevelandらによって提案された局所多項式回帰による平滑化(LOESS)は近年,時系列データをいくつかの成分へ分解する手法としても盛んに用いられるようになりました.
1つの例として「局所回帰による分解から明らかになった野鳥羽数と環境要因変化との関連性」(島津・柴田,投稿中)は実際の5野鳥種の観察羽数データに局所回帰による2段階平滑化を施すことで各時系列を長期,短期のトレンドとイレギュラー系列の3成分へ分解し,興味深い結果を報告しています.解析の結果,長期トレンドの振る舞いがキジバト,ヒヨドリ,シジュウカラ3種は観察地周辺の宅地面積の拡大,スズメ,ムクドリ2種は田畑面積の縮小と驚くほど一致している事実が明らかになりました.この鳥種による差異は種の環境選択性から説明付けられる結果です.さらに短期トレンドは繁殖期の羽数増加だけでなく,種によって冬期移動性の影響を示していました.
現在は特に局所多項式回帰の理論的側面からその平滑化の性質と平滑幅の選択の研究にも取り組んでいます.適切な平滑化は平滑幅よりも広い緩やかな傾向を抽出し,それよりも細かい動きは残差系列の中に残されている事実に注目して残差系列の局所的な平均二乗誤差の性質を調べています.最近,徐々にその性質が明らかになってきました.目下,局所多項式回帰を対象に研究を進めていますが,平滑化一般への拡張も可能であろうと考えています.局所回帰が変量間の非線形な関数関係を抽出するものであることを考えれば,本研究はCOEプログラム横断研究2「データサイエンスによる非線形現象の解析」の取り組む非線形現象の解析に資するものではないかと思います.