多様体の不変量に関する深い定理のひとつに Atiyah-Singer 指数定理がある。「指数定理」とは多様体の幾何不変量と解析不変量を結びつける深い定理であり、性質の全く異なる二つの不変量を関連付けている点で、その有用性は著しく高い。例えばL-種数や A^-種数の整数性定理(種数の定義からは有理数であることしか判らない)はその帰結である。
近年ではさらに精巧な指数定理を用いて、Casson, Donaldson, Floer, Witten 等により低次元多様体に関するいくつかの注目すべき結果が得られている。その中でも3次元ホモロジー球面の Casson 不変量と Floer ホモロジー群の関連性を明らかにしたTaubes の定理は,特筆すべき結果である。彼はスペクトル流と呼ばれる解析的二次不変量が関与する指数定理を用いてこの定理を証明した。このように、幾何学において指数定理の果たす重要性に関しては異議のないところであり、今や指数定理は数学における中心課題のひとつと考えてよいと思われる。
一方 Connes は「非可換微分幾何学」という新しい数学の枠組を提起した。これは微分幾何学・位相幾何学・作用素環論・エルゴード理論・数論・大域解析学・数理物理学にまたがる壮大な構想であり、将来に向けての新たな展開を強く予感させる。
我々は、本COEプログラムにおいて、非可換幾何学の枠組に基づく指数定理の展開と多様体の幾何学への応用をその研究目標とする。そして指数定理・ゲージ理論・可積分系で成功した手法を発展させ、非可換幾何学の統合的理論構築を行う。いかなる意味にせよ非可換化が行われるとき、多様体という連続的対象から固有値・グラフ・亜群などの離散的幾何対象への移行が観察される。我々はグラフ理論・数論・エルゴード理論・力学系の手法をも用いながらこの現象を究明し、「非可換多様体」の理論構築に資する。
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