もっともっともっと AmSTeX

        まえがき


数理物理学者に限らず, 論文の原稿を記述するツールは 時代とともに変化してきた. 例えば, ワードプロセッサ が現れる以前は, IBM の電動タイプライタが一世を風靡 していたのを御存知の方も多いのではないだろうか. しかし, 近年のパソコンやワークステーションの急速な 普及により, 論文の原稿を手軽に記述できるソフトウェア が電動タイプライタに取って代わろうとしている.

TeX は, もう御存知の皆さんも多いと思うのだが, スタンフォード大学計算機科学科のDonald. E. Knuth (クヌース) 教授によって作成された文書整形システムである. いまさら言うまでもないが, \TeX{}は文書を作成するワープロではないので, このシステムで文書を記述することはできない. 最近の流行語で言えば, TeX は卓上印刷 (desktop publishing) のソフトウェアの一つである. 特に, TeX は パブリックドメインで提供されていることもあり, パソコン から超大型の計算機までまったく同じ操作で利用することができる 優れものである. 特に, TeX は数式の記述能力が高く, ほかのシステムの追従を許さない ものがある.

TeX でいつも話題になるのは, この単語をどのように発音したらよいかということだ. The TeXbook の 最初のページでKnuth 先生がこの発音について 述べられている. しかし, 実際には TeX を最適な発音で呼んでいる人にお目にかかるのは非常にまれである. 同じような発音の話としては, いにしえに読んだ関口存男先生の 『趣味のドイツ語』にあったことを 思いだしたところだ. まさに, 「テックとはおれのことかと TeX 云い」の心境ではないだろうか.

AmSTeX は, TeX の変形版の一つで, M. D. Spivak (スピバック) によって作成されたものである. このシステムは, 基本的にplain TeX よりのシステムなので 最初は取り付きにくいかもれない. しかし, 数式の記述に関しては, 驚くほど豊富なコマンドを有している. 当然このシステムは読んで字の如くAMS (American Mathematical Society) がサポートしており, これを使ってAMS に論文を投稿することも可能である. また, AMS には AmSTeX についての質問やコメントに答えてくれる 部門があり, だれでも利用できるようになっている.

本書は, AmSTeX の解説書というか, 例題集といったほうがよいかもしれない. 特に, 本書はもっとも新しい AmSTeX バージョン2.0 に準拠して 記述してある. しかし, 旧バージョンをお使いのユーザにとっても十分 満足のゆくものである. あらゆる箇所で例題を豊富に取り上げたつもりなので, それを見るだけでも AmSTeX の使い方を学ぶことができる. 初めて AmSTeX を勉強する皆さんには最初は 何がなんだかわからないかもしれないが, あきらめずに読んでみてほしい. 勉強の仕方はいたって簡単で, AmSTeX, もっと AmSTeX, もっと AmSTeX, もっと AmSTeX と読み進めばよい. 明日は君もきっと AmSTeXnician になれるに違いない. お楽しみはこれからだ.

このまえがきを書いていると, 高田 勝先生からe-mailが届いた. そのお手紙の中に, こんな句をいただいた.

      京の冬雨に集いて炉端焼き    高田 勝

先生にも久しくお会いしていない.

最後に, 本書は日本語化した LaTeX によって全面的に記述してある. AmSTeX で本書を記述できなかったことが多少心残りではある.

草稿をいろいろ検討したり, 読んでくださった慶應義塾大学理工学部 数理科学科と計算機科学科の皆さんや共立出版 bit 編集部の小山透さん, さらに校正を手伝ってくださった共立出版編集部の吉村修司さんにも 感謝する次第である. また, 『TeXの道』に導いてくださった慶應義塾大学理工学部 電気工学科の大野義夫先生や管理工学専攻の大学院生の松永賢次君に もたいへんお世話になった. 一言お礼を申しあげる.

                    1990年11月 日吉の庵にて

                          野寺 隆志


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