これは1993年11・12月号の蟻塔に掲載されたものである.

ケープタウン

ケープタウン(Cape Town) 。 なんとなく哀愁に満ちた響きを持つ言葉だ。 アフリカにありながら, ヨーロッパの匂いを強く感じさせる街, ケープタウン 。 人々は, この街のことを「マザーシティー」と呼んでいる。

              
               ケープタウンを望む

ダーバンから約2 時間の飛行でケープタウンのD. F. マラン(D. F. Malan) 空港に到着する。 国際線と国内線が隣あう空港であるが, それほど大き な飛行場ではない。 今日泊まるホテルは, ダウンタウンの中央駅近くの``Ca petonian Protea Hotel'' である。 空港からダウンタウンの中央駅までリ ムジンバスでほぼ30分の道のりである。 ダウンタウンに近づくにつれ, 前方 に頂上がまっ平な山が見えてくる。 あれが噂に聞いたテーブルマウンテンで はないのか。 見れば見るほど, 頂上はナイフで切ったように真っ平である。 日本で言えば, 四国高松にある屋島の溶岩台地のようなものだが, スケール は桁違いにデカイ。 今朝雨がふったらしく, 汚れた空気が一掃され, テーブ ルマウンテンとデビルズピークがくっきりと浮かび上がっている。

       
       テーブル湾に面した住居

テーブルマウンテンを背景に, テーブル湾に面して広がるケープタウンは, 世 界有数の美しい港の一つであり, 南アフリカ第2 の都市でもある。 また, 小 高い丘の上に建ち並ぶ街の景観は, 坂道の多いサンフランシスコの景観と非常 によく似ているので, アフリカのサンフランシスコと言う人も多い。 また, テーブル湾を南に下ると, アフリカ大陸最南端 (実は違うのだが)として知ら れる喜望峰(Cape of good hope)がある。

ケープタウンの気候は, ダーバンの気候と比較すると, まるで冬の寒さだった 。 特に, 冬は雨期で天候のよくない日が多い。 雪の降ることもあるらしい 。 ケープタウンは嵐の町としても有名だ。 しかし, 小生は幸運にも, 天候 に恵まれ, 3日間の滞在中すべて晴れの日が続いた。

``Capetonian Protea Hotel''は, ヨハネスブルグで泊まったホテルのフロン ト係の女性に紹介してもらったホテルである。 格調はCape SUNやMount Nels onのように高くはないが, 中規模のしっかりしたホテルである。 チェックイ ンを済ませると, フロント係の女性が, 小生の耳元で「御存知だと思いますが 。 夜はなるべく出歩かないようにしてください。 暗くなると暴漢が出没す ることがありますし, たいへんあぶないですから。 もしお出かけになるのな らタクシーで行った方がよいですよ」となにげなくささやいた。 確かに, ホ テルの前には必ずガードマンが見張っているし, 大都会の夜のダウンタウンは どこも危険に満ち溢れている。 転ばぬ先の杖を教えてくれた。 感謝感激。 フロントには, 色あざやかな鳥が, 放し飼いで飼われている。 鳥の名前は さだかでないが, おとなしい。 ただし, 鳴き声はあまりいただけない。

フロントの斜め向い側に, 小さな売店がある。 キャンディ, 煙草, 絵葉書, 地図などを売っている。 お店に入り, お土産に絵葉書を買う。 店員は「日 本人か」と尋ねる。 「そうだ」と答えると, 「3 ヶ月前にもこのホテルに一 人泊まったが, 日本からやってきた人ではないだろう。 たぶん, アフリカを 中心にして活躍するビジネスマンだろう」と言た。 多くの日本人はCape SUN に泊まり, このホテルにはあまり泊まらないらしい。 ナミビア(NAMIBIA)の 本を見ていると, お店のレジの青年は, 地図を取りだし, ここだと説明を始め る。 はるか彼方の国から遣ってきた日本人には, ナミビアの場所がどこなの かわからないのではと思ったのかもしれない。 今夜はホテルのレストランで リッチに食事をすることに決めた。

このホテルのレストランは, それほど大きくない。 しかし, 格調を重んじる らしく, すべて予約制だ。 料理はびっくりするくらい美味しいし, フルコー スで食べても日本円にして2,500 円程度だ。 ケープタウンは新鮮な魚介類が 豊富で美味しい。 これは大西洋の冷たいベンガル海流とインド洋の温かいア ガラス海流がケープタウンの沖合いで合流しているからだ。 このような場所 はプランクトンの宝庫であり, それを求めていろいろな魚が集まってくるから だ。 特に, クレイフィッシュ(伊勢海老)は有名だが, ほかの料理と較べる と, やはり高価な部類に入る。 安くて美味しいのが, ホワイトサーモンだ。 しかし, この魚の名前は初耳だ。 ピンクサーモンは日本人の好物で, よく 知っているのだが。 たぶん, この地方以外では別の名前で呼ばれているにち がいない。 メニューを見て注文するのが面倒な時は, オーソドックスに``To day's line fish.''を頼めばまず間違いない。 また, バブウティと呼ばれ るごった煮も美味しい。 カレー風味のものもある。 世界中の料理が一同に 集まったようで, とにかく食べ物は何でもとてもうまい。

ケープタウンの近郊では, 気候や風土がマッチしているらしくワイン作りが盛 んである。 ワインの町として有名なステレンボッシュ(Stellenbosch)やパー ル(Paarl)があり, 格安の美味しいワインを飲むことができる。 ケープ州は 南アフリカのワインの名産地で, その品質は世界的に高い。 しかしながら, 小生はお酒をたしなまない。 残念だ。 毎晩, このレストランに食べに行く ので, ウエイターやウエイトレスと顔なじみになる。 明日は喜望峰に行こう 。 フロントでツアーの予約を入れてもらう。

         
         ステレンボッシュのワイナリー

食事の後は, 部屋に帰ってテレビのスイッチを押す。クイズに答えて, 商品 がいろいろ貰える番組を放送している。南アフリカ版の『クイズハンター』 だ。 ただし, アフリカン専用向けの放送らしく, 話している言葉は英語でも アフリカーンスでもない。司会者はちゃめっ気たっぷりの乗りで, 南アフリ カ版の「ウッチャン・ナンチャン」というところだ。チャンネルを変えると 音楽番組が目に飛び込んでくる。アラン・ギャリーの澄んだ歌声が響く。 今は南アフリカで活動しているのか。

朝7時45分。 外はまだ薄暗い。 多少空に曇が広がっているが, 天気は上々 のようだ。 日中になれば晴れてきそうだ。 ツアーの送迎車がやってきた。 バンの中にはだれもいない。 小生が一番乗りらしい。 これらか各ホテル を巡回してお客を集め, 最初の目的地, 標高1067m のテーブルマウンテインに 登る。 テーブルマウンテンは, ロープウエイで簡単に頂上に登ることができ る。 今日は天候が安定しているので, テーブルマウンテンのケーブルカーは 支障なく動いている。 ゴンドラの窓ガラスはすべてはずされている。 もし 窓ガラスが填められていると, 強風にゴンドラが煽られ, ゴンドラがロープか ら外れる危険性があるからだ。 山頂はすこし風がきつく寒かったが, ここか らの眺望はすばらしい。

          
          テーブルマウンテンの山頂にある測候所

テーブル湾を見下ろすと, 海岸から何キロ離れている定かでないが, 小さな島 が見える。 ガイドの説明によれば「あれは監獄島として知られるロベイン島 である」と。 ロベイン島はアフリカ民俗会議(ANC)のネルソン・マンデエラ 議長が18年間の投獄生活をおくった場所としてあまりにも有名である。 近年 , この島をアパルトヘイトの記念館として保存する動きもあるらしい。 これ が実現すると, 「脱獄はほぼ不可能である」と言われた要塞にも観光客が訪れ ることになる。 立場は違うが, これはまるで, サンフランシスコのアルカト ラス刑務所と同じ運命をたどることになる。 俳優クリント・イーストウッド がネルソン・マンデエラを演じることはまずあるまいと思うのだが。

頂上の駅には展望台とおみやげものを売るお店がある。 十数人のアジア系の 観光客が, 頂上の駅でゴンドラを待っている。 話し声からすると日本人では ない。 ベトナムからやってきた移民の人達らしい。


喜 望 峰

テーブルマウンテンの次は, あこがれの喜望峰を訪れる予定になっている。 ロープウエイの駅から海岸通りに移動し, バントリイ・ベイ(Bantry Bay)の ビスタポイントでバンからマイクロバスに乗り換える。 ゆるやかにカーブし た海岸線が美しい。 今日のツアーの合計人数は10人だ。 5 人がホンコンか らやってきた子供ずれの中国人の家族, 一人のアメリカ人の女学生, イタリア 人のコック, 夫が軍で働くドイツ人夫婦, そして私。 まるで, 三国同盟のよ うだ。 気持ちはすでに, 喜望峰に飛んでいる。 ツアーガイド(運転手も兼 ねている)が右の窓側の座席に座るように手でサインをおくる。 海側で眺望 がよいからだろう。 子供の母親が小生に何か中国語で話かけるが, 意味がぜ んぜん理解できない。

マイクロバスは西海岸に沿って南下する。 最初の観光ポイントは, ホウトベ イ(Houtbay) 。 港には多くの漁船が係留さている。 アザラシのコロニーを 見学するツアーもこの港から出発するらしい。 おだやか入り江だ。 ここか ら登り坂が続き, チャップマンピークに到着する。 道路が岩肌を切り抜けて 走る。 この付近は赤茶けた岩盤の地層が続く。 希望峰は間近かだ。

     
          ホウトベイ

喜望峰はケープタウンから60km南下した所にあり, 大西洋とインド洋が合流す る地点である。 アフリカ最南端の地として有名ではあるが, 実際には対岸の 南東約160km の地点にあるアグラス岬が最も南の端である。 しかし, 何とい っても喜望峰ほど名実ともに有名な地点はない。 付近一体は緑豊かな草原で あり, 喜望峰自然公園になっている。 スプリングボック, アンティロープな ど多くの動物や鳥が生息しているようだ。

ケープ半島の突端がケープポイントと呼ばれる岬なのだが, 喜望峰と呼ばれる 岬は半島から西に少し張り出した所にある。突端のケープポイントに行くに は, 駐車場から, 車体にフライング・ダッチマンと書かれたマイクロバスに乗 り換える。 車体の色は明るいブルーだ。この駐車場からケープポイントま で登り坂が続く。 行きの片道は無料だが, もし帰路に再びこのバスを利用す ると1ランドの運賃を払わねばならない。バスを降りて, 白く塗られた展望 台まで数十メートルの急な登り坂が続く。遂にやってきたケープポイント。 大西洋とインド洋が合流する地点だ。この海の向こうには南極大陸しかな いと思うと感無量である。 どこを覗いているのか, 海に向って望遠鏡を覗い ている人。 見渡すかぎりの大海原。 船の姿はどこにも見えない。 写真機 を子供に向け, やたら記念撮影をするおとうさん。 肩を抱き寄せながら, 話 に興じる恋人どうし。 いろいろだ。 喜望峰に限らず, 岬では様々な人間模 様が繰り広げられる。

  
 ケープポイントの駐車場                       ケープポイント

帰り道は下り坂なので, 歩く人が多い。小学校の社会見学なのだろうか, 子 供達がバスでこの岬を訪れている。駐車場には, 小さな売店とレストランが ある。売店の中には郵便局の出張所がある。記念スタンプを押してくれる のだろう。売店では喜望峰を訪れた証明書を売っているのが目にとまる。

この地方は天候がいつも悪いことで知られ, 通常「嵐の岬」と呼ばれている。 船の座礁も多いと聞く。 しかし今日はすばらしく晴れあがり, 岬の美しさ を堪能することができた。 これで南アフリカに来た目的の一つを達成できた ことは言うまでもない。

海軍基地のあるサイモンズタウン(Simon's Town)を通り過ぎ, 港町フィッシ ュホーク(Fish Hoek)で昼食になる。 すでに, 午後2時近くだ。 ドイツ人 夫婦と一緒に食事をとる。 きれいな海岸線が続き, 子供達が砂浜で遊んでい る。 浜辺で水遊びをしている子供たちもいる。 はるか湾の彼方で水煙りが たちあがる。 鯨が潮を噴いているらしい。 この近海ではよく見られる光景 らしい。 そろそろ帰り支度だ。

ミルゼンバーグ(Muizenberg)から内陸に入り, グルート・コンスタンシア (Groot Constantia)と呼ばれるワイナリーに立ち寄る。300 年以上の歴史を 持つワイナリーである。園内には白壁がとても美しいケープダッチ様式の建 物が並んでいる。かって南アフリカの2 代目の総督のために1685年に建てら れたものだ。ドイツ人夫婦とイタリア人のコックさんは, ワインのテイステ ィングに夢中だ。しかし, 品質のよいワインにもかかわらず, 値段の安いの には驚かされる。

ツアーの最終目的地は, 南アフリカで一番大きな植物園カーステンボッシュ( Kristenbosch National Botanical Garden)である。 たしかに広い敷地に様 々な花が咲き乱れている。 しかし, シーズンオフで最盛期の面影は感じられ ない。 そろそろ夕闇が迫ってくる時刻だ。

高速道路を走り, 30分程度でケープタウンのダウンタウンに到着する。ふと 見ると, 道路をまったく乗客が乗っていないダブルデッカーのバスが走ってい
る。ツアーガイドによれば, 「アフリカンのバスボイコットだ」とのこと。 中央駅の近くでは, アフリカン達が長い列を作っている。 ヨハネスブルグ で見た光景とまったくよく似ている。アフリカン専用タクシー(マイクロバ ス)を待っているのだろう。帰宅の時間であろうか, 中央駅付近は人々の雑 踏で満ち溢れていた。 ホテルは目の前だ。


ダウンタウン

ケープタウンのダウンタウンは, 坂道が多い。 繁華街はちょうどサンフラン シスコのパウエル通りのような町並みである。 Cape SUN Hotel のある付近は , まるでユニオン・スクウェア(Union Square)のメーシーズデパート(Macy's) のある辺りのような感じがする。 ゆるい坂道が続き, 道の両側はシックな町 並みになっている。 ユニオン・スクウェアと同じような広場もある。 土曜 日と日曜日には, この広場でマーケットが開かれることになっている。

ケープタウンの名所の一つに, シーポイント(see point)をあげることができ る。 観光用の港だ。 中央駅にはシーポイント行きのマイクロバス乗場が特 別に作られている。 バスは水色で, ボディにドルフィンが描かれている。 このバスにのり中央駅からシーポイントの入口までは10分程度だ。 料金は50 セント。 バスの券売機はメカ式で見ているだけで面白い。 長年使いこんで きたものらしい。 シーポイントの入口には, ガードマンが車をチェックして いる。

シーポイントには, さまざまな催し物を行なう施設が整っている。 また, 浜 辺には, リゾートホテルが建ち並んでいる。 シーフードを食べさせるお店が 軒を並べている。 これではまるでサンフランシスコのフィッシャーマンズワ ーフだ。 広場ではマーケットが開かれ, キャプテンクックの装束をした大道 芸人がサキソフォンを吹いて, 小銭を稼いでいる。 湾内にはアザラシが泳ぎ , 日本から来た遠洋漁業の船の姿も見える。

明日は, 美しいケープタウンの町ともおわかれ。いよいよ日本に帰国する日
だ。

午前7 時, タクシーで空港に向う。 さようなら, ケープタウン。 さような ら, 喜望峰。 さようなら, 南アフリカ。


南アフリカ, 旅のおわりに

南アフリカの大自然は美しい。 しかし, その中で展開される民俗間の争いは なんと醜いことか。 支配する者の論理と支配される者の論理が真っ向から対 立する国だ。 歩み寄りは牛歩のように序々にしか進まない。 多くの人々は 時間が解決してくれるという。 しかし, それは本当なのだろうか。 時間は ただ流れ行くのみで, お互いに理解し合う努力をする必要があるのではないか 。 時が変るのではなく, 人が変るのだから。

無人の大地を移民たちが切り開き築いた典型的な多民俗の国。 現代文明の象 徴のようなコンクリート製の高層ビルが建ち並ぶ都市を持つ国。 反面, 都市 の近郊には, 赤茶けたトタンを使って回りを覆っただけのあばら家が建ち並ぶ スラム街のある国。 この世の贅沢の限りを尽くす生活をおくる人々の陰で, どうがんばっても極貧の生活から抜け出せない人々のいる国。 アパルトヘイ ト全廃が, 次から次へと新しいアパルトヘイトに姿を変え, 民俗間の対立を次 から次へと生み出す国。 世界有数の鉱物資源を産出する国。 アフリカで核 兵器を保有するただ一つの国。 美味しい食べ物が豊富な国。 大自然がとて も雄大で美しい国。

あの東京の観光局で貰ったビニール袋に書かれたキャッチフレーズ「南アフリ カ, 一つの国に世界がある」が妙に現実の世界状勢と結び着き, 考えさせられ る言葉となった旅であった。

南アフリカへの旅行の前に一番知りたかった事柄が, 実は南赤坂の観光局のお 嬢さんが, たくさんの旅行ガイドを入れてくれたビニール袋の表に書かれたキ ャッチフレーズ``South Africa, a world in one country.'' の言葉に隠さ れていたのだから。


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