そもそも、

  • 「量子力学の解釈問題」とは、何なんだろうか?

さらに、しつこく問い掛けるならば、

$(A_0):$ニュートン力学、電磁気学、相対性理論では、 「解釈問題」など無いのに、なぜ量子力学だけ「解釈問題」があるのか?

である。 実は、これは本質的な問いかけで、以下に答えるが、これだけでは十分とは言えず、この講義すべてで答えることになる。








言語ルール1 (測定) と 2 ( 因果関係 ) が量子言語のすべてである. したがって,
$(A_1):$言語ルール1と2 を丸暗記して、後は試行錯誤で使えばよい.
量子言語は言語なのだから、「習うより慣れよ」である。 つまり、
$(A_2):$experience is best teacher, or, custom makes all things
である。
しかしながら,
(B):「言語ルール1と2の使い方のマニュアル」があれば, それを読んだ方が上達が早い。
ことは当然で、 \begin{align} & \mbox{量子力学の言語的解釈} \\ = & \mbox{言語ルール1と2の使い方のマニュアル} \end{align} と考える。


マニュアルなので、詳しく書けば切りがないないが、一つだけ書けば、次のようになる。
言語的解釈 ($\S$3.1で読めるようになる)
言語的解釈の中で、最も「使える」のは
  • "測定は一回だけ"
である。


「言語的解釈=マニュアル」なので、言語的解釈の説明として、次の両極端な説明が可能である:

$(E_1):$マニュアル(=言語的解釈)などなくても、試行錯誤で使っていれば、自然に会得できる.
$(E_2):$ この本で書くことすべてが、マニュアル(=言語的解釈)である


上の「(E$_1$)と (E$_2$)」を一言でまとめるならば、 よく言われることであるが、

  • 「量子力学の本は、料理本(Cookbook)のようなもの」 .

である。 これは当たり前に言われていることなのだから、何度も言っているように、「量子言語は独創的なことではなくて、平凡な当たり前のこと」 で、
  • 「本書は、料理本(Cookbook)のようなもの」 .

である。 現象の背後にある実在の真の姿を追究するのではない。 量子言語は現象を組織化・予測するための形式的な道具・装置であると見なす立場で、
  • 量子言語は、量子力学の徹底した道具主義化の産物
である。



$\fbox{注釈1.5}$(コルモゴルフの)確率論は次の呪文からスタートする:

$(\sharp_1):$ 確率空間$(X, {\mathcal F}, P)$を考える。 このとき、 事象$\Xi ( \in {\mathcal F})$が起こる確率は、 $ P(\Xi)$ で与えられる


これは、(量子言語以前に)科学的に成功した唯一の「(形而上学的)呪文」である。 これからスタートして、試行錯誤の末、コルモゴロフは、「コルモゴロフの拡張定理」 を発見した。 ここで、「コルモゴロフの拡張定理」の精神とは、

$(\sharp_2):$ただ一つの確率空間しか許されない


であり、これは、言語的解釈 "測定は一回だけ"に対応する。 すなわち, \begin{align} \overset{\mbox{(基本定理)}}{\underset{\mbox{ (確率空間は一つだけ)}} {\fbox{確率論}}} \overset{\mbox{ (対応)}}{\longleftrightarrow} \overset{\mbox{(言語的解釈)}}{ \underset{\mbox{(測定は一回だけ)}} {\fbox{量子言語}}} \end{align} こうなると、

$(\sharp_3):$コルモゴロフは、 言語的解釈の発見者の一人である

と考えたくなる。 コルモゴロフが出来たことならば、我々だって頑張れば、「測定は一回だけ」に到達できるに違いない。 言語的解釈は、マニュアルなので絶対的に不可欠というものではない。 無くても、試行錯誤の末に会得できるはずのものであると考える。
また、この講義では「量子言語は未来の理論統計学(図1.1のHin$\S$1.1)」を主張するが、 これは

$(\flat):$ 「呪文$(\sharp_1)$に対する言語ルール1と2の理論的優越性」の主張

と同じ意味である。 なぜならば、 統計学の基盤は呪文$(\sharp_1)$だからである。 また、「理論統計学」としたのは、「未来の応用統計学」はコンピュータの比重が圧倒的になり、理論の部分が希薄になるはずだからである。


補足: 「エントロピー増大則」も科学的に成功した「(形而上学的)呪文」である。 出所の記憶が定かでないが、アインシュタインの言葉として、

$\quad \bullet$ 将来的に、相対性理論が実験的に否定されることがあるかもしれない。 しかし、 「エントロピー増大則」が実験的に否定されることは永久にないだろう

があったと思う。そうならば、アインシュタインは、「エントロピー増大則」を形而上学的命題と考えていたのだと思う。 アインシュタイン流に言うならば、 「コルモゴロフの$(\sharp_1)$」も「量子言語の言語ルール1と2」も実験的に否定されることは永久にない。 ただし、「理論的優越性」は決着できると考える。