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統計物理学および応用物理数学を専攻する者として、主な関心は統計力学の基礎的諸問題とその適用範囲の拡張にある。統計物理はいろいろな系や現象の大きく異なった二つの階層を関連づけようとする。これらの階層は従来はいわゆるミクロとマクロの階層であったが、今やそれは短時間挙動と長時間挙動の関係であったり、個体と群集社会の関係であったり、遺伝型と表現型の関係であったりする。二十年以上前に現象論的アプローチとそれを支えるくりこみ理論がこのための枠組であることを納得して以来、くりこみの哲学を系統的に系の逓減と粗視化されたモデル構成に応用する方法を開発することに努力してきた。
本COEプログラムにおいては、複雑かつ大規模な系の大域的漸近的性質を逓減的くりこみ理論およびその拡張によって抽出する方法を系統的に追究したい。これはイリノイ大学の生物学研究所でのプログラムとも並行している。くりこみの基本的思想は系のモデルやそれを記述する方程式の与える構造安定な諸特徴を抜き出せばそれは系の粗視化された漸近的記述を与えるだろうというものである。よく知られているように、中心極限定理や大数の法則はくりこみ理論で自然に与えられる。そこで統計数学におけるデータの縮約およびデータマイニングと、応用数学、物理数学側の系の逓減との関係を追究することが自然な目標となる。所属している研究所の関係から実例としては当然ながら生物学的問題が関心の中心となろう。今まで主に道具の開発に従事してきたが、計算の理論の生物学版、つまり真の意味の基礎生物学を構築することも真剣に取り組むべき課題である。
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